2014年12月26日金曜日

550.「笑うハーレキン」 道尾 秀介

東口は、子供を亡くし、妻には逃げられ、経営していた家具会社は倒産します。川辺に流れ着いてホームレスとなり、家具造りの技術を活かして、家具の修理をしながらその日を生きつないでいます。

ある日、東口の車に奈々恵という女が侵入し押しかけ弟子となります。東口と奈々恵の奇妙な共同生活が始まりますが、奈々恵は何かを隠しているようです。

人生の底辺まで堕ちた人間が希望もなく無気力に日々を生きながらえる。お金がない弱みに付け込まれ、更なる窮地へと追い込まれて命まで失ってしまう。

そんな状況でも仕事を続けることで生きる糧を確保していくうちに、新たな希望に出会えることがあるということを教えてくれました。人生をやり直すことに年齢は関係ないと勇気づけてくれます。


549.「田母神戦争大学 心配しなくても中国と戦争にはなりませ」 田母神俊雄、 石井義哲

中国、ロシア、北朝鮮、韓国の軍事行動の本当の意図がよく分かりました。

また、アメリカの日本に対する政治交渉も大変分かりやすいです。上記4カ国と日本が仲が悪ければ、アメリカに対して連合を組んで向かってくることがないので、非常に都合がよいとの説明は、その通りだと思いました。

中国の防衛識別圏の設定が問題となりましたが、実は中国はこれをうまく使いこなせないので意味をなさず、気にする必要はないそうです。単に尖閣諸島に対して使ってみた位のことだそうです。

尖閣諸島や北方領土が中国やロシアにとって重要なのは、そこが潜水艦が太平洋に自由に出るための通路だからです。海底資源の問題はその次です。そうなると、これらの島々から手を引かせることは簡単ではありません。日本も自国の軍事力を強化して、これらの地域を防衛する必要があるのではないでしょうか。


2014年12月25日木曜日

548.「ちいさなかみさま」 石井 光太

ノンフィクションライターである著者が出会った、ちょっといい話。ビッグコミックスペリオール誌で2年間連載をショートストーリーを単行本化したそうです。

人の心の中で進むべき道を照らしてくれる小さな灯火。それを著者は「ちいさなかみさま」と呼んでいます。

私はなかでも「おはよう兄さん」の話が一番好きです。知的障害を持ち、夕方になると街中を走って出会う人に「おはよう!」と声をかける青年の話です。家族は周囲に迷惑をかけていると思っていましたが、実は「おはよう兄さん」に勇気づけられている人が沢山いました。


2014年12月24日水曜日

547.「スナックさいばら おんなのけものみち 男とかいらなくね?篇 」 西原 理恵子

漫画家の西原 理恵子による、読者とのガールズ・トークです。

本編は、
-わたしの上京ものがたり
-男だらけの男祭り、開催!私たちにダメ出ししてください
-うちのオカンのイタイ話
-オーバー50の方達に聞きたい。結局、女のシアワセって何ですか
-ワタシにも言わせて!この世でいちばん大事なおカネの話

一番面白いかったのは、おカネの話です。どんなに災難があっても、おカネが入ってくる仕事を持っていて、おカネを蓄えていれば、何とかなるんですね。

彼氏は、高須クリニックの高須先生ですが、高須先生って70歳を超えているんですね。整形を繰り返しているそうです。医療の進歩はすさまじい。でも、ちょっと浅香光代に似てますね。

ところどころに、作家の岩井志麻子さんが登場します。「名器になる注射をブスブス打っている」とか、エチオピア人とやった時の話とかあけすけに書かれていますが、いいのでしょうか。


2014年12月22日月曜日

546.「暴露:スノーデンが私に託したファイル」グレン・グリーンウォルド

スノーデンが米国国家安全保障局(NSA)の最高機密情報を暴露したことは、大変なニュースになりました。しかし、正直なところ、私は詳しい内容を殆ど知らず、米国国内の話で日本にあまり関係がないと思っていました。

ところが、スノーデンは日本ととても関係が深いのです。彼は、NSA勤務時にその請負企業「デルコンピュータ」(ほんとかよ)に派遣され、2009年から2011年まで日本のデル(=NSA)で上級サイバー工作員の訓練を受けていました。つまり、デルはNSAの一機関で、そのスパイ養成学校が日本にあったのです。驚愕しました。

米国は、国内どころか世界中の情報を管理しています。
その手法は、
1. 大手通信会社「ベライゾン」の国内加入者数千万人分の通信履歴の収集
2. アップストリーム:光ファイバーが米国に上陸するポイントでの情報収集
3. PRISM:フェイスブック、ヤフー、グーグル、アップル、ユーチューブ、スカイプのサーバアクセス
4. CNE:コンピュータへの「クワンタム」ウイルス感染

PRISMでは、フェイスブックのチャット、ヤフーメールの内容、グーグルの検索結果などを収集しています。

CNEでは、米国のPCメーカーが出荷するPCをランダムに押収して、「クワンタム」というウイルスに感染させ、再包装のうえ未開封として出荷します。このPCは既に世界に10万台以上あるそうです。

小説「米中開戦」で中国政府のセイバー攻撃が描かれ、「こんなことができるのか」と驚きましたが、米国政府はそれ以上のことを既に実行済みでした。

米国政府のメインターゲットに日本も含まれています。友好国と思っていては、足元をすくわれますね。これでは、TPPでも日本の情報は筒抜けであり、米国に有利に交渉が進められることでしょう。



2014年12月19日金曜日

545.「即答力」 松浦弥太郎

「即答力」とは、目の前のことに即答できる能力といったところでしょうか。この能力により、仕事も人も運もチャンスもやってくるそうです。

「即答力」を身に付けるには、ひたすら即答を続けることしかないそうです。そのためには、自分の基本に対して、「なぜ、なに、なんだろう」と疑問を持つこと。著者が自分の仕事の全ての事柄に即答できるのは、24時間、365日ほぼ仕事について考えているからだそうです。

「誰よりもよく考えているから、誰よりもいい判断ができる。」
確かに、その通りだと思いました。自分の仕事について、いつも疑問を持ち、即答できるように準備しておく。そのプロセスで自分の専門分野に対する知識が蓄積するとともに、視野も広がり、判断基準が確立して、判断の精度が上がる。

単純な作業ですが、とても効果があると思います。その一方で、期限も督促もないので継続することが難しいのではないでしょうか。

本書でも具体的なやり方は示されていませんが、是非とも習慣にしたいものです。


2014年12月18日木曜日

544.「スタート!」 中山 七里

中山七里さんの小説は、重苦しく、いくつものどんでん返しがある殺人事件に魅力があります。

本作は、映画製作に情熱を傾ける人間ドラマだと思っていたので、新しい分野を探るそれなりの作品と、正直、あまり期待していませんでした。そこそこは楽しめるだろうけど、夢中にはなれないだろうという予想です。

しかし、その予想は、完全に裏切られました。素晴らしい作品です。映画製作の舞台裏を見せながらも、善人の隠された悪意を基軸のテーマにしています。

映画に情熱を傾ける若者達の成長を描きながら、殺人事件の謎解きも同時進行させています。その中で、昭和の職人達から、平成の若者達へ、映画に向き合う覚悟が伝達されていきます。

作中の映画原作「災厄の季節」が、著者の「連続殺人鬼 カエル男」であるところも面白いです。この作品も傑作なので、ご一読をお薦めします。




最後まで、どんでん返しが続き、最後の最後に「芸術を愛する者の悪意」が姿を現します。一気に読みきれる作品でした。

2014年12月17日水曜日

543.「失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで」 大和 彩

著者は、37歳、体重100Kgの女性です。「女子」と呼べるのか疑問です。

著者が無職に陥った理由は、知識や技術が蓄積しない仕事を長期にわたって続け、30歳半ばを過ぎて失業してしまったことと思われます。低賃金で20代の女性との競争になってしまいますから、採用されるのは、非常に難しいと思いました。

しかし、このような状況に陥ってしまう人は多いのではないでしょうか。私自身は、最初の勤務先で新規飛び込み営業をさせられていたので、失業時でも、100件位の求人情報に応募して、次々とお祈りレターを受け取ることも、苦になりませんでした。ただし、このような人間の方が特殊で、多くの人は断られることが怖いので沢山応募することに腰が引けてしまうのではないでしょうか。

また、就職活動にしても、ハローワークに通うのみで、履歴書のブラッシュアップや、面接対策、キャリア形成等の策が全くありませんでした。ハローワークの職員さんに助けてもらって、やっと方向が見えてきます。これでは、失業状態が長期化するのも無理は無いと感じました。

著者にとって幸運だったのは、ハローワークでよいアドバイザーに出会えたことです。その方と定期的に面談することで、精神的サポートや、経済的支援を受けることができました。こういった制度は、非常に有意義だと思います。

雇用の安定や、個人の能力安定を考えると、派遣社員に制限を設け、正社員の雇用を増やすべきと思います。また、移民を増加させず、まずは日本人の雇用を確保することが、税収上でも社会の安定面でも大切と思いました。






2014年12月16日火曜日

542.「スナックさいばら おんなのけものみち バックレ人生大炎上篇」 西原 理恵子

それぞれのテーマについて投稿された内容に、西原理恵子さんがコメントしていく形式です。場末のスナックのガールズトーク。本書のテーマは、

  • アナタが遭遇した「こりゃ、ないわ~」な体験
  • おひとり様ですが、何か?
  • ”この仕事をやっててよかった”と思った瞬間
  • トモダチはいますか?
  • 私はこうしてどん底から這い上がりました
投稿者は、30代後半から40代後半の女性が多く、皆驚くほど様々な人生体験をしています。それでも何とか生き抜いて逞しく生きているところが勉強になり、頼もしく思いました。


2014年12月15日月曜日

541.「ブランド戦略全書」 田中 洋

私は、「戦略」という言葉があまり好きではありません。具体的に何を意味するのか明確ではないのに、何となくすごく考えぬかれたように思わせる意図が感じられるからです。

本書も例に漏れず、「ブランド戦略」の意味が明確に理解できませんでした

仮にブランドの価値を上げるような計略という意味であれば、この本の内容を正確に表していません。本書は実用書というより学術書です。10人の著者による論文集と考えたほうがよいと思います。そして、一冊を貫く一つの主張はなく、各自の興味にそったバラバラの論説です。

さらに、私に合わないのが、カタカナ英語が多いこと。「ミーニング(意味)」のように記載しますが、それだったら、単に「意味」でよいのではないでしょうか。カタカナ英語を使うことで、自分が英語に堪能なことや、普通の内容を箔付けしようとしているように感じます。

著者達も実際に、実務に携わる方が少なく、学者さんが多いです。ということは、実際にブランドの価値を上げた経験があるわけではなく、誰かがやった手法を分析したり、たまにアドバイスしてそれがうまくいったり、いかなかったりということではないでしょうか・・・

ブランドというものに初めて触れる大学生などには、よい教材だと思いました。


2014年12月12日金曜日

540.「米中開戦3」 トム クランシー、 マーク グリーニー

アメリカの無人探査機のコントロールを奪い、墜落させた実行犯である査殊海は、CIAに拉致されますが、証拠隠蔽のため、CIAの隠れ家で暗殺されます。

しかし、彼のコンピュータに保管されたデータの解析により、徐々に「センター」の正体が明らかになります。

一方、南シナ海では、人民解放軍による挑発行為が続き、アメリカの戦闘機と交戦します。さらには、南シナ海を封鎖して、接近してきたインドの航空母艦へミサイルを打ち込みます。

中国の台湾占領が徐々に現実味を帯び、台湾を影で支援する米国との開戦が近づきています。

現実の世界でも、中国の不動産バブルは既に崩壊しており、2015年は経済破綻が明らかになる可能性が高いそうです。そうなった場合、他国を侵略し国内の不満をそらし、侵略国の経済を乗っ取って景気の辻褄を合わせるという本書のシナリオも、あながち、作り話でなくなるかもしれません。


2014年12月11日木曜日

539.「七色の毒」 中山 七里

人間が隠し持つ憎悪や殺意を、殺害につかわれた凶器の色に擬えて描き出しています。

人に対する悪意は一人だけが抱くものでなく、複数の人が同時に抱いていることがあります。

殺人事件の殺害方法や動機が一見単純に見えても、その背後には何人もの憎悪が渦巻き、互いに教唆しながら実際の殺人が行われる。そんな構図を非常に短いページのなかで、見事に描いています。

物語の最後にどんでん返しがあり、最後のページまで目が話せない、スリリングな短篇集です。


2014年12月10日水曜日

538.「日本国の復権――論戦2014」 櫻井 よしこ


2013年に週刊ダイアモンド等に掲載されたコラムに、2014年時点のコメントが追加されています。

著者が問題と思うテーマについて、4ページ程度で説明と解説がなされており、分かりやすいです。

著者の論調は保守寄りで、読んでいて日本という国に自信を誇りを感じられます。


一方、中国への脅威論が何度も記載されており、私が考える以上に中国の他国侵略の意欲が強く、危険であることが伺えます。


また、事実かどうか分かりませんが、韓国における北朝鮮の工作が浸透しているようです。特に、司法分野に北朝鮮親派が地位を得ており、日本に対する戦時補償の判決もその流れから来ているとのことです。


そして、河野談話の検証報告に驚きました。強制連行をしていないのに、韓国政府のゴリ押しのため、詫び状と償い金を払ったそうです。これは殆ど知られていないことです。償い金まで支払っているのにさらに未だに賠償請求するなど、単なるタカリでは・・・

河野談話の検証報告
1. 正式文書で、日本政府は、強制連行を認めていない。
2. 韓国政府が強制連行を認めるよう強く介入、日本政府が政治的配慮から譲歩。
3. 61名の女性達が首相の詫び状とともに一人500万円の償い金を受領。


2014年12月9日火曜日

537.「新装版 続・レモンをお金にかえる法」 ルイズ・アームストロング、 ビル・バッソ

子供達のレモネード販売を通じて、景気変動を説明しています。

ある年のアメリカ。異常寒波により、レモンが不作となります。
子供達のレモネード店でも原料が値上がりしたため、レモネードを値上げします。
するとレモネードを買うために、他のビジネスも値上げをし、インフレになります。

そして、インフレを止めるために価格凍結、賃金凍結、レイオフ、倒産を引き起こします。
仕事を失った人は、安い労働力として市場に流れ、物価が下がり始めて大不況となります。

つまり、本書の定義で大不況はデフレを意味しています。
ということは、20年以上もデフレの日本は、ずっと大不況だということになります。

この大不況に対する景気刺激策として、失業保険で需要喚起し、新しい事業を起こして雇用の場を作り、その事業に資金を貸し付けることが挙げられています。

アベノミクスでいう、第一の矢(金融緩和)と第三の矢(規制緩和)ですね。この話では、これで景気が回復しますが、実際にはこれで景気回復するとは思えません。そうすると、アベノミクスでも第二の矢がないと、デフレ脱却は難しいでしょう。

こんなに単純な循環はおこりませんが、子供に景気変動という概念を伝えるにはよい本ですね。


2014年12月8日月曜日

536.「日本人が一生使える勉強法」 竹田 恒泰

まず、ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」を分析し、西洋式成功哲学を解き明かします。

つまり、夢を明確化し、具体的に計画を立て、それを紙に書いて読み上げることで、やるべきことを意識化することです。

しかし、夢を固定化することは可能性を限定するということなので、常に変化する社会においては、夢が陳腐化することがあると解きます。

そこで、夢は変わることを前提に、それに対応できるように勉強することを薦めています。

勉強の内容は、仕事やお金に結びつけることではありません。役に立つと分かっていることだけ勉強しても、他の人も同じことを考えているので、外部に発注できる能力をわざわざ身につけることになるそうです。言われてみれば、その通りです。

まずは、一分野を極めることが重要で、そのためには、その分野にまつわる閲覧可能な文献はすべて読み込むのが原則だそうです。

実践的内容で、大変勉強になりました。


2014年12月5日金曜日

535.「快挙」 白石 一文

写真家希望の俊彦は、月島で居酒屋を開いていたみすみを見初め、交際の末、結婚します。

写真家としてなかなか芽がでない彼は、写真家になる夢を諦め、小説家志望に転身します。

阪神・淡路大震災のあと、みすみの実家である須磨に移り住みますが、夫妻は子供に恵まれません。

俊彦の小説も陽の目を見ず、さらに俊彦は結核に侵され、長期入院を余儀なくされます。

みすみは、家計を支えるため、昼は貿易会社で、夜はスナックで働く。お互いをいたわり、愛しあう2人でしたが、徐々にその関係は変質していきます。

俊彦にとっての、「快挙」とは何であったのか。それが語られる時、男と女が添い遂げるという意味を考えさせられました。


2014年12月4日木曜日

534.「追憶の夜想曲」中山七里

本書を読む前に、御子柴礼司にまつわる前作「贖罪の奏鳴曲」を読むことをお薦めします。

御子柴礼司は被告に多額の報酬を要求する悪辣弁護士です。彼は十四歳の時、幼女バラバラ殺人を犯し少年院に収監されましたが、名前を変え弁護士となりました。

実際には、そんなことができるのか疑問です。

彼は、夫殺しの容疑で、懲役十六年の判決を受けた主婦の事件に、高裁の審理から弁護人となります。争点もないため勝ち目は薄く、主婦はお金を持っていないため高額報酬も望めません。

御子柴は、なぜ亜季子の弁護を希望したのでしょうか? そして第二審の行方は?

裁判員裁判制度が導入されてから、心証が裁判に与える影響が大きくなり、厳罰化が進んだそうです。その心の動きに着目した心理戦の裁判ミステリーです。

最後まで、人間の欲望や贖罪が暴かれ、償うということの意味を考えさせる非常にすぐれた小説です。




2014年12月3日水曜日

533.「時計じかけのオレンジ 完全版」アントニイ・バージェス

スタンリー・キューブリックの有名な映画の原作です。

「ビブリア古書堂の事件手帖」で、結末が異なる2版あることを知り、興味を持ちました。

こちらは、映画の結末と異なる、著者オリジナルの完全版です。1962年発表ですが古びていません。


「時計じかけのオレンジ」とは、洗脳によって行動を規制されたもろい果実のような人間を表わしているのでしょうか。

未来のナッドサット言葉なる単語が頻出するため、少し読みにくいですが、独特の雰囲気を醸し出しています。翻訳者の苦労は並々ならぬものだったのでしょう。

アレックスが殺人で逮捕されたのが15歳の時です。釈放された後、洗脳が解かれたのが18歳。映画では確か洗脳が解かれ、元に戻った不気味な雰囲気で終わったような印象があります。

原作で著者は子供が大人になるということを最後に描きたかったのではないでしょうか。




2014年12月2日火曜日

532.「Nのために」湊 かなえ

2014年10月期ドラマの原作です。

1月22日午後7時20分頃、高層マンションの一室で野口 貴弘・奈央子夫妻が殺害されます。

部屋には、西崎 真人、杉下 希美、成瀬 慎司の3人が居合わせ、西崎が犯人として逮捕されます。西崎と奈央子は、不倫関係にありました。

この部屋で一体何が起こったのでしょうか。

ドラマでは、小説にない警察官が登場します。これは、小説が登場人物の独白形式を採っているため、各人の心情が細かく描かれています。これをドラマで表現することが難しいため、第三者の目線を入れて客観的に説明しているのではないでしょうか。

読み終わったあとに、Nとは結局、誰だったのか考えこみました。希美と成瀬の穏やかなラストに思いが深まりました。


2014年12月1日月曜日

531.「40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。 新・ミドルエイジ論」成毛 眞

身も蓋もないない真実が語られており、とても面白かったです。

「そもそも資本主義社会において、資本家になるのが最終目的であり、社内で出世してもあまり意味がない。」

この言葉は、会社の役職で人間の価値を測ってしまうことの無意味さに気づかせてくれます。

ミドルエイジのライフプラン、趣味、健康、財布について様々なアドバイスを提供してくれます。

そのアドバイスは、世間一般で言われていることとは異なるかもしれません。

しかし、こちらの方が説得力があり、真実に思えました。


2014年11月28日金曜日

530.「億男」 川村 元気

一男は、弟の借金3,000万円を肩代わりします。
借金返済のため、日中、図書館で働いたあと、夜にパン工場でアルバイトをしています。

月に20万円を返済していますが、完済までにあと30年はかかります。
借金が原因で妻とは不仲になり、妻は、一人娘を連れて家を出て行きました。

そんなある日、彼が持っていた宝くじが当選し、彼は、3億円を手にします。

借金も返済できて家族も元に戻ると、嬉しいはずなのですが、彼は、その扱いに当惑していきます。そして、彼は、親友で起業家の九十九に、3億円について相談します。

お金とはなにか、お金と幸せの答えについて、問いをなげかけられます。

九十九、十和子、百瀬、千住、万佐子、それぞれのお金に対する考えが語られる中、いろいろと思考することができます。

正直なところ、読み終えても、自分の答えはでませんでした。本書と波長が合う人は、気付きがあるかもしれません。



2014年11月27日木曜日

529.「絶対的な自信をつくる方法---「OKライン」で、弱い自分のまま強くなる」 森川 陽太郎

著者は、以前にも取り上げた「ネガティブシンキングだからうまくいく35の法則」の森川陽太郎さんです。

内容は、「OKラインを低く設定する」という基本コンセプトは同じです。

具体的なトレーニングで気に入ったのは、「感情日記」を書くことと、「1分間つぶやき」です。

「感情日記」は、「今日は◯◯ですごく腹が立ったなどの感情だけを記録する方法です。これにより、素直な感情、等身大の自分と向き合えるようになるそうです。

「1分間つぶやき」は、腹が立つことがあったら、「ムカつく、ムカつく、ムカつく・・・」といった感情だけを端的な言葉で1分間つぶやき続ける方法です。これにより、自分の中にある感情を客観的に受け入れられるようになるそうです。

自分でもやってみたいと思いました。



2014年11月26日水曜日

528.「ほんとうの味方のつくりかた」松浦 弥太郎

著者は、暮しの手帖編集長です。

本書は、丸ごと一冊自分のルール集です。著者は、それを厳格に守っています。頑固で理屈っぽい人だと思いました。

食事は、6時13時19時で、夜10時に寝て朝5時に起きます。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」が理念です。

著者の周りの人はどう感じているのでしょうか。対応が決まっているから理解し易い? それとも、少し堅苦しい?

これだけ決めると、本人としてはブレないので生きやすいのかもしれません。

私には合わないと感じましたが、異なる価値観に触れることが出来て勉強になりました。


2014年11月25日火曜日

527.「ボクが医者になるなんて」 川渕 圭一

37歳で医師になったという異色の職歴を持つ著者が30歳にして医学部に入学するまでの物語です。

著者は2浪して、東京大学工学部に入学します。東京で一人暮らしをしていた著者は、出張で東京に来ていた父と夕食を共にします。長年のわだかまりが解けて、やっと素直に心を通わせるようになります。

しかし、その夜、ホテル・ニュージャパンで火災が発生し、宿泊していた父は巻き込まれて焼死してしまいます。呆然とする著者は、父の記憶を遠ざけるようにして生活するようになります。

大学時代はナンパに明け暮れ、大学院に進んではパチプロとなり、結局、退学してしまいます。入社した商社は激務のため、1年で退職し、次に入社した外資系メーカーではうつ病を発症して退職します。

通院先の3人の医師の診療に不満を持った著者は、
「これなら、僕のほうがよっぽどマシな医者になれる。」
と考えます。そして、封印していた医師だった父の記憶に向き合い、30歳で京都大学医学部に入学します。

正直なところ、大学時代と大学院時代の話は、軽薄で無責任すぎてうんざりします。恐らく、自分が人の子の親であるからだと思います。

しかし、自分の大学時代を振り返ってみると、あまり大差がなかったようにも思えます。20代というのは、成人式を過ぎ、大人と見られていますが、内実は無責任で目標も曖昧でその時々を浮遊しているのかもしれません。



2014年11月21日金曜日

526.「ホリエモンとオタキングが、カネに執着するおまえの生き方を変えてやる! 」堀江 貴文、 岡田 斗司夫

3回のトーク・イベントをまとめた内容です。

内容は、タイトルほど読み手を挑発するものではありませんでした。編集者の売上目的のアオリ文句に感じられました。

2人とも、自分の価値観を語っており、他人の価値観を変えようという意図は感じられませんでした。

「ふーん、そういう考え方もあるのか」と感じますが、ここを真似してやろうとか、ここを深堀りしてみようとか思うことはありませんでした。

トーク・イベントの与太話をあえて書籍化する必要があったのでしょうか・・・


2014年11月20日木曜日

525.「人生は見切り発車でうまくいく」 奥田 浩美

著者自身の人生訓です。まずやってみて、動きながら考えろということでしょうか。それ以上でも以下でもないです。編集者が何故これだけの内容を出版しようと企画したのか不明です。

著者が女性として起業して成功しているからか、それとも自費出版に近い宣伝本なのでしょうか。

様々な本を読むようになり、以前は好きだったビジネス書の多くが内容が薄いように感じてきました。どれも1~2時間で読めてしまいます。本書もその類です。

そして、その内容が本当にその成功の要因だったのかに疑問の目を向けるようになりました。さらに、本当にその人が成功しているのかすら怪しいと感じます。


2014年11月19日水曜日

524.「ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ 」 三上 延

第2話は、ブラックジャックの話です。

この漫画界の金字塔とも言える作品は、連載開始当初、5話程度で終わる短編の予定だったことは驚きです。しかも、第1回目は巻頭カラーでなく、告知も地味。殆ど期待されていなかったそうです。

なぜなら、この時期の手塚治虫の人気は下降しつつ合ったからです。自身が経営するアニメプロダクショは倒産し、連載は次々打ち切られ、原稿料もBクラスに落ちていたそうです。しかし、連載後徐々に火が付き、結局200話を超えるまでの長期連載となりました。

手塚は医師免許を持っていたのですが、ペーバードクターでした。そのため、誤った情報に基づく話もあったそうです。そういった話を修正したり、削除してりした結果、ある巻に複数の版が存在するようになりました。本作はロボトミーに関する話を差し替えたために起きた第4巻が謎のキーになっています。

3つの謎をベースに栞子と大輔の恋愛が進みます。
そして、「・・・ここに残るなら気をつけなさい。」という母の言葉と、
「連絡しろ」という田中の伝言がシリーズ後半に向けた謎をほのめかしています。


2014年11月18日火曜日

523.「神様の裏の顔」 藤崎 翔

人格者で「神様」と呼ばれた、元中学校校長の坪井が心不全のため68歳で死去します。
坪井を慕う、多くの元同僚や元教え子が通夜に参列し、涙します。そして、それぞれが故人との思い出を独白します。

故人からしてもらったことが沢山あり、それが更に涙を誘います。しかし、その思い出のなかでところどころ、おかしな点に気づきます。

通夜振る舞いで参列者が言葉をかわすと、その小さかったおかしな点が相互に関連づいていきます。そして、神様の裏の顔が徐々に浮かび上がっていきます。

果たして、坪井は本当に「神様」だったのでしょうか。

第34回横溝正史ミステリ大賞受賞作です。長編ながら文章が読みやすく、どんどん読み進んでいけます。そして、それぞれのささいな疑惑がどんどん関連づいて、真実が明かされていくところがとても面白いです。



2014年11月17日月曜日

522.「驕れる白人と闘うための日本近代史」 松原 久子

本書は、ドイツに住む日本人の著者がドイツ語で著したものの翻訳です。ドイツ人の日本人に対する偏見に反論することを目的に書かれました。

日本人にとっては、ある程度の基礎知識がある内容を正確かつ精緻に説明し、さらに著者の解釈が加えられています。

日本の歴史や文化を知らない外国人が読むと、驚くことばかりではないでしょうか。それは、白人にとって、江戸時代までの日本は、キリスト教を信仰しない野蛮人が住む未開の国であり、明治維新により、白人の文明を教わってやっと文明化したと思われているからです。

江戸時代の江戸の街並みは、とても美しかったようです。それが欧米化と大東亜戦争の戦果により、殆ど失われてしまったことが惜しまれます。日本の文化や習慣を再認識して、日本らしい国を創り、自信と主張を持って外国と堂々と渡り合いたいものです。


2014年11月14日金曜日

521.「「ひきこもり」から子どもを救い出す方法」 内田 直人

ひきこもりの実例が豊富ですが、読んでいると気分が暗澹とします。どうやって生活しているのか、これから仕事につけるのか、犯罪に手を染めないか、家族に迷惑をかけていないか。

ひきこもりの子供の中で特に難しいのは、親が学校の先生、医者、弁護士という先生と呼ばれる職業についている子供だそうです。「しっかりとした社会的地位についている親なのに何故?」と思いました。こういった親は、職業柄他人から感謝されるため、子供が「感謝されたい。反省したくない。」というパーソナリティを持つことが多いそうです。その結果、子供は変なプライドを持ってしまい、周囲から生意気との誤解を生じてしまいます。

ひきこもりの子供に対して、ゴルフを使って更生を図るという手法に驚きました。そして、非常に効果が高いそうです。ゴルフは、自分との戦いであり、思い通りにいかないことが殆どで、マナーに厳しいからだそうです。更生した子供達の実例を読んで、ホッとしました。


2014年11月13日木曜日

520.「米中開戦2 」 トム クランシー

中華人民共和国の韋国家主席は、ついに南シナ海の領有権を主張し、具体的な行動に出ると宣言します。

その一方で、中国のサイバー軍事集団が設立されるに至った経緯が描かれ、その中心人物である<センター>童の正体が明らかになります。


彼の影響力は既に全世界へ広がっており、ペンタゴンのコンピュータシステムも侵入されています。そして、米軍の3機の無人機がその遠隔コントロールを奪われ爆破されます。

そして、中国人民解放軍はフィリピンのスカボロ礁を占拠します。

1巻で種まきされた内容が、2巻で結びつき始め、徐々に面白くなってきました。


2014年11月12日水曜日

映画「ストーン」


ミンスは、父を亡くし、博打狂いの母親との2人家族。かつては、棋院に所属し、囲碁のプロになることを目指していましたが、今では碁会所の賭け囲碁に身を持ち崩しています。

ミンスは、ある事件をキッカケに、ヤクザの組長ナムに囲碁を教えることになります。ナムは、ミンスの才能に惚れ込み、自堕落な人生に落ちていこうとするミンスにプロ棋士への道を再び目指させます。ナムも囲碁に向かううちに、自分の人生を振り返り、ヤクザから足を洗おうとします。

しかし、地上げの事業に巻き込まれ、2人の人生は大きく変わっていくことに・・・

囲碁をヤクザの組長に教えるという設定に魅力を感じずに見始めましたが、なかなか面白かったです。ラストもスッキリしました。

519.「ビギナーのための法律英語【第2版】」日向 清人

日本語の短文の中に、法律用語を一つ配し、その対訳を併記することで実用的な法律英語を学べるようになっています。

合間のコラムでCompanyとCorporationの違いや、Co.,Ltdの中間のカンマの要否についてなど、日頃使っていても、よくわかっていない用法などについて解説されています。

様々な法律英語を学べて、勉強になりました。


2014年11月11日火曜日

映画「晩餐」



父は、定年退職し、暇にかまけて山登りに熱中しています。
母は、家事と孫を世話しながら、子供達に生活費を無心しています。
兄は、妻の体が弱く、子供がいないうえ、仕事をリストラされます。
妹は、心臓に持病があり、離婚したうえ、自閉症の子供を育てています。
弟は、大学を卒業しましたが、仕事がないうえ、教育ローンの返済に追われています。

母の誕生日に、弟は運転代行の客とトラブルを起こし、兄を巻き込んだうえに、家族に不幸をもたらしていきます。

韓国の低迷する経済を背景に、その中で、もがき苦しむ普通の家族の姿を描いています。

リストラ、大卒無職、離婚といった韓国の問題は、決して他山の石ではありません。日本はデフレの中、資産、人間関係などを取り崩して凌いできました。日本も選択を誤ると、韓国化し、こういった悲劇が頻発する社会になるおそれがあると思います。



518.「ホテルローヤル」 桜木 紫乃

北海道の湿原に建てられら、ラブホテル「ローヤル」を舞台に7人の人生が描かれます。誰もがごく普通の人ながら、情欲に駆られ日常を一歩踏み外す。人間の秘められた欲情を豊かな描写で暴き出しています。2013年の直木賞受賞作品です。

登場人物の生活が現実的過ぎて、気分が悪くなりました。仕事の厳しさ、老いの臭い、老後の無収入、僻地の貧困などが非常に生々しく描かれています。

そういった状況で、事件が起こるのですが、きっかけは日常の歯車が少し狂っただけなので、誰にでも実際に起こりうる事件です。そして、現在の日本の閉塞感も感じられる作品でした。



2014年11月10日月曜日

517.「ネガティブシンキングだからうまくいく35の法則」 森川陽太郎

著者の森川陽太郎さんは、OKラインメンタルトレーナーです。奥さんは、プロゴルファーの横峯さくらさんです。

本書では、書店にあふれているポジティブシンキングや成功のイメージを描くといった手法に拘らなくてもうまくいくと主張しています。逆にそういった方法は、少しでもその通りに行かないと、その失敗に対応できないで、さらに大きく失敗してしまうことがあると説明しています。

35のいろいろな法則が書かれていますが、私が気に入ったの以下の法則です。

「”確実にできること”にOKAYラインを設定する」
自分でも心がけていることであり、効果を実感しています。

「失敗を受け入れるけど、反省はしない」
それでもいいんだと、安心しました。どうしても自分を反省に追い込んでしまいがちですが、反省しても同じことを繰り返してしまうので、反省しすぎてもあまり意味がありません。

「”絶対にできる”と自分に言いきかせることをやめる」
世の中でもてはやされているポジティブシンキングへのアンチテーゼです。成功していることをイメージするというアメリカ的な積極思考は、想定外のことが起きると慌ててしまい、うまく対応できません。

「”嫌い”のまま相手と付き合う」
それでいいんだとホッとします。いいところを見つけて相手を好きになるという考え方もありますが、好きになれない自分が悪いんだと、自分を責めてしますことにもつながります。

「”ルール”を一行で書きだしてみる」
これは、僕もやっています。自分自身の実体験から自分の人生訓を作ると、行動がぶれないし、自分にとって実際に成功したルールなので、似た状況では成功の確率が高まると思います。

「”コントロールできるもの”と”コントロールできないもの”を分ける」
デール・カーネギーの「道は開ける」でも書かれていることです。これをすることで無駄なことに心が捕われないようになり、できることに集中できます。


2014年11月7日金曜日

516.「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ 」 三上 延

4巻は、江戸川乱歩にまつわる物語です。

3巻までは、1冊で3冊の古書を紹介す短編でしたが、4巻は1冊丸ごと江戸川乱歩に関する長編です。1冊にまつわるエピソードだけでもすごいのですが、一人の作家についてここまで語れるのは最早圧巻です。

しかも、4巻では、ヒトリ書房の井上店主と、栞子の母智恵子との因縁まで描いているところが深いです。こうしてみると、1巻の段階で智恵子の話を含めて全体像を描いていたのでしょうか。その世界観の広さに驚きます。

僕も小学生の頃、少年探偵団に夢中になりました。少年探偵団の1作目が書かれたのが昭和11年で、その後25年間も書き続けられたそうです。僕が読んだ時点で、すでに40年近く経っていたとは、これまで全く気づきませんでした。


2014年11月6日木曜日

515.「ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ 」三上 延

テーマとなる古書の内容と本編がうまくリンクしています。話の設定にも無理がないので素直に読めます。

本にまつわる謎解きだけだったら、毒のない児童文学ですが、短篇集を貫く本流に失踪した母親の謎があるため、大人でも楽しめるミステリーになっています。

今回の古書は、「たんぽぽ娘」「チェブラーシュカとなかまたち」「春と修羅」です。

「たんぽぽ娘」は読んでみたいと思いました。
「チェブラーシュカとなかまたち」は、しのぶの心情や母の本心をよく表しています。
宮沢賢治の逸話はとても面白く、勉強になりました。


2014年11月5日水曜日

514.「アポロンの嘲笑」 中山 七里

東日本大震災から5日後の福島県で原発作業員の金城純一が刺殺されます。加害者の加瀬邦彦は逮捕後に隙を見て逃走します。邦彦を逃した仁科刑事は必死で邦彦を追跡しますが、邦彦が向かっている方向は・・・

福島第一原発を舞台とした設定は時期を得ていて感心しました。しかし、整合性がない部分が多いです。

著者の原子力発電に対する見方がかなり否定的のようで悪意を感じました。原発内の状況や東京電力の組織を描写していますが、偏見もあるようでどこまでが事実なのか分かりませんでした。

原子力発電に対する施策側の驕りを全体のテーマにするため、事件を構築し、それを非難するために太陽神であるアポロンの嘲笑と名づけたようですが、すこし思い込みが強いかな・・・

最後の鮮やかなどんでん返しが魅力の著者ですが、本作はそういったことがなく、ミステリーというよりアクション小説でした。


2014年11月4日火曜日

513.「最後の命」 中村 文則

「私」が帰宅すると、馴染みのデリヘル嬢、エリコが私のベッドの中で強姦され、絞殺されていました。私の家から、幼馴染の冴木の指紋が検出されました。彼は連続婦女暴行事件の指名手配犯でした。

人がどのようにして犯罪者となっていくのか、その過程と心情がとてもよく描かれています。

幼いころの事件をきっかけに同じ体験を持った2人がそれぞれどのように成長していったのか。

狂気の一歩手前まで踏み入った人間と、情欲に囚われ一線を踏み越えた人間のコントラストが鮮やかです。


2014年10月31日金曜日

映画「最後まで行く」



殺人課のコ刑事は、母の葬式に急ぐあまり、人を轢いてしまいます。パニックになったコ刑事は、被害者をクルマのトランクに積み込み、逃走します。

ちょうどその時、収賄の疑いでコ刑事の所属部署が警察の内部監察官から取り調べを受けます。事故の発覚を恐れたコ刑事は被害者の遺体を隠蔽することに成功します。

ホット一息ついたコ刑事のもとに、非通知の電話がかかり、コ刑事が遺体を隠蔽したことを告発すると告げるのでした。

次々と事件が起こり、とてもテンポよく話が進みます。無理な設定部分もありますが、あまり気になれずに楽しめます。スリリングな展開にドキドキしながら最後まで引きこまれました。

512.「人生教習所」 垣根 涼介

大人の落ちこぼれたちが小笠原諸島で受ける人生再生塾の話です。

この本を読むまで、小笠原諸島が1968年までアメリカ領であったことを知りませんでした。大変不勉強です。

日本返還により、その時点でグアムの高校に在学していた子供達はアメリカ国籍を選び、小笠原諸島の中学校に在籍していた子供達は日本国籍を選んだそうです。一つの家庭の中で国籍の異なる家族が存在する状況になりました。

小笠原諸島は、日本の他の島に比べて、新参者に対する許容度が広いようです。それは、島という閉鎖社会ゆえに泥棒が殆どいないという環境と、綺麗な海に憧れて住み着く新島民の流出入によるもののようです。

人生再生塾ということなので、実務的な講義内容かと思いましたが、その中心は、小笠原返還によって運命を左右されて島民達の体験談を聞く、社会学でした。登場人物たちは、国家、国籍、選択などを考えることで、自分の生き方を再構築して、社会に戻っていくのでした。


2014年10月30日木曜日

映画「これが私たちの終わりだ」


正直なところ、私には、あまりピンと来ませんでした。

コンビニエンスストアを舞台に若者たちの荒唐無稽なショートストーリーが次々に続きます。
同じキーワードが使われる話もありますが、ストーリー同士の関連性はあまりありません。

何を訴えたかったのか、どんな効果を狙ったのか、よく分からない映画でした。どうやら韓国の人気タレントを起用したアイドル映画だったようです。

2014年10月29日水曜日

511.「世界を戦争に導くグローバリズム」 中野 剛志

国家の政策には、理想主義と現実主義があり、政権はどちらかに振れるようです。

ブッシュ政権は、理想主義であったようです。正義の御旗のもと「テロとの戦い」に邁進し、サダム・フセインの独裁政権を壊滅させましたが、それが更なる混迷を産んでしまいました。

理想主義の政策を採っていた場合、不幸な結果を巻き起こすことが多いように感じました。

安倍政権は理想主義を採り、オバマ政権は現実主義を採っているようです。
これが両国間の軋轢を生んでいます。
日本はTPPにより安全保障が強化される(理想)と思い込んでいますが、アメリカはTPPに自国の雇用創造(現実)しか求めていません。
そのため、TPP交渉は難航しており、例え締結されたとしても日本には殆どメリットがありません。

そして、周囲に侵略国がなかったアメリカは、グローバル化というDNAを保有しています。他国を実質的に侵略することになるグローバル化は、他国の民主主義を阻害する結果を引き起こします。経済力を持った中国も非常にアメリカナイズされたグローバリズム国家です。中国の東アジアにおける侵略行動に留意しなければならないと思いました。


映画「慶州」


北京大学の教授チェ・ヒョンは、先輩の葬式のため、韓国に帰省します。葬式後、先輩と7年前に行った慶州のカフェに、思い出の春画を見るために訪ねます。カフェの女主人コン・ユニと親しくなったチェは、その友人達と一夜を過ごすことに・・・

正直なところ、話に脈絡がなく、何が言いたいのかよく分かりませんでした。

慶州という観光地を紹介するための映画か、それとも、風情を漂わせて雰囲気を感じさせる映画か。

随所に中華思想も見受けられました。
北京大学をありがたがる大学教授や、中国茶や中国たばこをありがたがる姿から中国への畏敬を感じました。
一方、日本のおばさん観光客がコンに、
「私は、過去に日本が犯した過ちを謝りたい。」
と謝罪する姿から日本への軽視を感じました。

最後まで、「よく分からない」というのが偽らざる気持ちでした。

2014年10月28日火曜日

510.「詐欺の帝王」 溝口 敦

「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれた男のインタビューから、詐欺についての全容を解き明かしています。

男は、大学時代にイベント・サークルに所属し、全国組織をまとめ上げ、ヴェルファーレなどのディスコに顔が効くようになります。

大学卒業後、大手広告代理店に勤務していましたが、スーフリ・レイプ事件で関与を疑われ、子会社に出向されたたために退社します。

イベントで貯めこんだ資金とノウハウを持っていた男は、ヤミ金で挙げられた五菱会に目をつけ、五菱会亡き後の後釜に座り込み、勢力を伸ばしていきます。

ヤミ金の店長達は、評価基準である利息回収率を上げるために、金を貸し付けていないところから金を引っ張るようになります。オレオレ詐欺による振込金をヤミ金の回収金に紛れ込ませたのです。その結果、回収率が信じられないほど上がりました。

つまり、オレオレ詐欺は、ヤミ金の回収率アップの原動力としてヤミ金から自然発生したそうです。

システム詐欺のカラクリが分かって、とても勉強になりました。


映画「怪しい彼女」



頑固で口が悪い70歳の老女、マルスンは、息子夫婦と孫2人の5人暮らし。
マルスンがある日、「青春写真館」で写真を撮ると、20歳に若返ってしまいます。

彼女は若い頃に、自由に出来なかった事を楽しみ始め、ひょんなきっかけから孫のバンドでボーカルとして歌い始めます。

老女が若返るというプロットは珍しくありませんが、細かい設定が面白いです。コメディタッチながら、シリアスな場面では泣かせます。

主演のシム・ウンギョンの歌が本当に素晴らしく、聞き惚れてしまいました。彼女が時たまキレるのですが、どこかで見たことがあると思いましたが、サニーのナミ役でもキレ芸を披露していました。

笑えて泣けてホッとするする、よく出来た映画でした。