2015年3月2日月曜日

588.「流星ひとつ」 沢木 耕太郎

2013年8月に藤圭子さんが28歳で芸能界を引退する直前のインタビューです。会話だけで文章が進みます。

藤圭子さんの全盛期を知らないので、ヒット曲は「圭子の夢は夜ひらく」の一曲だけかと思っていました。
しかし、実際にはシングル34枚の総売上700万枚、LP35枚が110万枚、テープ100種類が150万本で、累計売上が170億円!という、娘の宇多田ヒカルに勝るとも劣らない大スターでした。

突然の引退の理由は、ネタバラにはなるの書けませんが、とても意外なものでした。この理由は当時ほとんど知られていなかったのではないでしょうか。このインタビューも著者の沢木さんが封印し2013年まで出版されていませんでした。

貧しさの中で、しかたなく芸人として育ったことでコンプレックスが染み付いてしまい、スターになった後でも拭えませんでした。このコンプレックスは、歌を歌っているときは無心になることができたのですが、引退の原因となった出来事から、無心で歌を歌えなくなりました。そして、歌いながら色々考えてしまうようになり、コンプレックスからも逃れられなくなります。

また、いつも何かに怯えていましたが、その原因は子どもの頃に受けた父親からのDVだそうです。母親はこの父と離婚するのですが、離婚後も藤圭子はお金を無心され、断ると何をされるかわからないので、家賃と小遣いとは言えない大金を払い続けました。

有名になったことでマスコミから有る事無い事を書かれ、大金を持ったことで様々に人にたかられ続け、それでも正直であろうとする藤圭子は傷つき、病んでいきます。そしてついには引退に至り、やっと平穏な日々を送れると思えたのです。

その後については、本書に書かれていませんが、亡くなり方からは平穏な日々を送れたようには思えませんでした。とても胸が痛くなる歌姫の告白でした。