2016年6月20日月曜日

948.「サラバ! 下」 西 加奈子

単なる小説ではなく、アドラー心理学にも通じる深い心理探求の書でもあります。

本書が問いかけるものは、自分自身の「信じるもの」は何か、ということ。

それは、宗教であったり、人への愛情であったり、思想であったりします。そして、それは他人が決めるものではなく、自分で見つけるものです。「信じるもの」=芯がないと、他人との比較に明けくれ、心も体も揺れてしまいます。

歩は、子供の頃から姉と自分を比較し、自分の芯を持たず、周囲に合わせることでうまく生きてきました。子供の頃はそれでうまく行ったのですが、社会に出る頃になると、定職も持たず、本当の伴侶もなく、揺れる日々を過ごすことになります。

苦しみ、もがき、放浪したすえに見つけた信じるものは、「サラバ」。しかし、「サラバ」は子供の頃から歩が得ていたものでした。それが信じるものだと気づかず、他の価値観に埋もれてしまったのでした。

小説の読み方や、自分の価値観に気付きを与える一冊でした。