2018年5月17日木曜日

1228.「じっと手を見る」 窪 美澄

生殖の時期ゆえに本能的にセックスを求める若者と、生殖の時期を過ぎ自分の肉体すら管理できなくなった老人を、介護という仕事を通して対比しています。

「人はいつか死ぬのになんで生まれてくるの?」という根源的な疑問。

それに対して「死に近づいていく人たちの世話をして、それを換金し生きる糧を得ていく。」という介護職を通して、人間の逃れられない宿命を表わしているようです。

著者は、短編を組合せていく連作を書かせたら当代一の作家だと思います。

それぞれの短編で登場人物がそれぞれ主人公となりますが、全体を通して日奈が主人公となります。それぞれの登場人物の立場から語られる話によって日奈の半生が複層的に構築されます。

若い時の燃え上がるような欲望が枯れてしまったあと、男女に残るものは何かということを考えさせられる作品です。