2013年12月24日火曜日

203.「聖痕」 筒井 康隆

5歳の時に男性器を切り取られた美少年、貴夫の生涯を描きます。

昭和40年代から東日本大震災後の日本を舞台に、性欲から派生する欲望に囚われない主人公が、欲望渦巻く時代を洒落に生きていきます。

リピドーを失った彼に残された関心は味覚。その研ぎ澄まされた感覚により、食の世界で独自の世界を切り開き、周囲の人達にも大きな影響を与えていきます。

土地、株、性欲にまみれた世の中が狂乱するなか、人間の生きる基本である「食」を追求して生きた彼は、時代に翻弄されず、着実に成功していきます。

それは、彼の性器が「スケープゴート」となり、あらゆる贖罪から彼を守ってくれたからでしょうか。

文章に改行がほとんどなく、段落分けも4つ位しかないため、最初は非常に読みにくかったです。
慣れてくると、連続する文体が登場人物の心理の混乱をうまく表現していたり、枕詞を使うことで古文のような味わいを出したりして、一気に読めました。

貴夫が幼稚園の頃、お遊戯で「受胎告知」の天使ガブリエルを演じます。これは後に性交渉のない自分の妻、夏子に自分の妹を娘として授けることを暗示しているようです。

物語に聖書をモチーフにしているような感じがしていて、非常に深い作品でした。