2014年2月27日木曜日

265.「美幸」鈴木 おさむ

187ページと厚くなく、文章も少なめで読みやすいです。

にもかかわらず、話に厚みを感じるのは、簡潔な文章ながらも読み手のイメージを引き出すためと思います。

主人公美幸の中学時代から犯罪を犯し、服役するまでを描いています。「習字」で表彰されるという、どこにでもある、ごく普通の出来事からイジメが始まります。

中学時代に受けて陰惨なイジメから内にこもり、文学日記を相手に恨みを晴らす美幸。彼女の趣味は当て字を作ること。
顔晴る(頑張る)、楽笑(楽勝)、惨酷(残酷)など、かなりの数の当て字が生み出されます。この当て字だけでも、著者の苦労が伺われます。

人間の無邪気な残酷さ、イジメがもたらした精神の変容、悪意なき裏切りがとても上手に表現されています。

ステーリーも最後まで二転三転し、その都度、最初に読んだ時に違和感を感じた部分に新しい解釈が生まれます。

美幸の「心実」や、ありふれた言葉「感謝」について、読後に思い返しました。