2014年10月12日日曜日

496.「遮光」中村 文則

「私」は、子供の頃両親を亡くし、無口で感情を表さなくなります。引き取ってくれた夫婦に好かれるために、感情を偽ることを覚えます。それが高じて、平気で嘘をつけるようになっていきます。

成人した「私」は、隣室と間違えてやって来た、デリヘル嬢の美紀と出会います。美紀と深い愛情で結ばれるようになりますが、美紀は、交通事故で亡くなってしまいます。

「私」は、衝動的に美紀の遺体から小指を切り取り、ホルマリン漬けにして持ち歩きます。そして、美紀はアメリカへ留学していて元気にやっていると嘘をつきます。そして、日々、美紀を想い、嘘をついているうちに、精神のバランスを崩して、狂気の世界へ踏み込んでいきます。

常軌を逸した人間の審理は、なかなか理解できませんが、本書では、狂気に染まり始めた人間の無軌道な心の動きを明瞭に表わしています。その心情に同期はできないものの、知ることはできました。