2014年10月25日土曜日

507.「去年の冬、きみと別れ」 中村 文則

「僕」は、殺人犯の木原坂雄大について本を出版しようと、雄大が収監されている拘置所へ行きます。

雄大は、姉の朱里とともに児童養護施設で育ちました。幼いころから写真に興味を持ち、それが高じて写真家になります。その被写体は、最初は姉、次に蝶、そして人形へと移り変わっていきます。人形は、鈴木という人形師によって造られたもので見た者の心を捉えてしまいます。

「僕」は、雄大がなぜ二人の女性を焼き殺したのか、そして、なぜ燃えゆく様を写真に収めなかったのかという謎から抜け出せなくなってしまい・・・

描写が精緻で情景が鮮明に思い浮かびます。著者特有の陰鬱な描写は変わりませんが、洗練されてきており、読み手に暗い印象を与えながらも、気持ちを沈み込ませ過ぎません。