2013年11月29日金曜日

181.「55歳からのハローライフ」村上 龍

取り立てて恐ろしいことは起きませんが、希望を見いだせない50代後半の暗澹とした描写が酷く恐ろしいです。
熟年離婚、ホームレス転落、高齢再就職、難病、一人暮らし等50代後半から現実に起こりやすい落とし穴をリアルに体験させます。

二人は、話し方や風体から判断して、間違いなく富裕(主人公)と同類の人種だった。つまり、元それなりの上場会社にいて管理職の経験がある。営業かエンジニアで東京の大学を出て首都圏に住居がある。こなれた標準語を使う。風貌には現役時代の自身の残滓のようなものが刻まれている。
ただ、肩を落として歩くその姿を見ると、周囲にはただの老人に映っているだろう。

「時間かけて自分にできること、やりたいことを必死にまとめたあげくに、差し出される仕事がビルの守衛や清掃というのは悲しくないか。」


一人がそう言うのを聞いて、富裕はやっと現実を把握した。中高年が再就職先を見つけるのは絶望的にむずかしいのだ。


この描写を読んで、まさに企業を辞めたかった場合の10年後の自分の姿だと思いました。

自分も営業職で、その虚しさから退職しましたが、やはり、40年近く営業職や管理職をやっても再就職には役立たたないのかと、悲しくなりました。
威厳を持って60代を生きていくには、自分のお客さんを持って、独立していなければならないと思いました。

主人公達が、暗い状況でもそれを現実を受け入れた時にその現実を新しい世界として見ることができ、微かだが確かな希望を見出すところに救いがありました。

(青字部分は、本書からの引用です。)